
「アドブルーを補充したのに警告が消えない」――そんなお問い合わせをよくいただきます。
今回のお車は、メルセデスベンツE220d (W213)。埼玉県越谷市のお客様より、「アドブルーを補充しても、あと◯キロでエンジン始動不可と表示が出ています」とのご相談をいただきました。見積もりと作業期間をお伝えして後日お持ち込みいただきました。
本来、アドブルー残量警告は補充すれば消灯するもの。それでも警告が消えず、しかも「エンジン始動不可」のカウントダウンが進んでいる場合は、SCRシステム本体や周辺センサーに不具合が出ているケースが多いわけです。ディーラーさんで修理見積もりを取ると数十万円コースになりがちで、そこで一旦立ち止まる方が少なくありません。
今回もご予算・作業期間・部品の調達状況を踏まえ、最終的にはアドブルー無効化(撤廃)プログラムで対応する方針となりました。以下、診断から作業完了までを順を追ってご紹介します。
入庫の経緯と症状

入庫時のメーター内の状況。お客様からは「あと◯キロでエンジン始動不可」のメッセージが出ているとのご報告。
メルセデスベンツE220d (LDA-213004C)、平成29年12月登録、走行83,660kmのお車。年式・走行距離としてはまだまだ元気に走れる一台ですが、ここに来てアドブルー関連の警告が消えなくなってしまったとのこと。
お客様自身でアドブルー補充も済ませているのに、メッセージが消えるどころかカウントダウンが進行している――この「補充したのに直らない」というのが、SCRシステム故障の典型的な兆候です。アドブルーは入っているのに、車両側が「正しく機能していない」と判断し続けているわけですね。

OM654ディーゼルエンジンを搭載したE220dのエンジンルーム。外観上の異常はとくに見当たらず。

エンジンルーム内の制御ユニット周辺。
診断結果:検出されたDTC
さて、まずは現状把握。XENTRY(メルセデス純正診断機相当)で全システムスキャンを実施します。

こちらがN118/5 – 選択触媒還元(SCR03)ユニットで検出された故障コード。アドブルー関連のエラーがずらりと並びます。

こちらはN3/9(OM654エンジン制御ユニット)側。NOxセンサ2の機能障害が記録されています。
検出されたDTCは以下の通り。
● P202D7A AdBlue®システム内の漏れが検知されました。漏れあるいはガスケットの不良が検知されました。
● P13DF00 AdBlue®システムに機能障害があります。
● P20F57A AdBlue®消費量が多すぎます。漏れあるいはガスケットの不良が検知されました。
● P20F500 AdBlue®消費量が多すぎます。
● P3002DE NOxセンサ2(シリンダ・バンク1)に機能障害があります。
ご覧のとおり、「漏れの検知」と「消費量過多」、そして「NOxセンサの機能障害」がセットで記録されている状態。ざっくり言うと、車両側は「アドブルーがどんどん減っているのに、排ガス中のNOxは思うように下がっていない」と判断していて、これがエンジン始動制限のカウントダウンへとつながっているわけです。写真を撮り忘れてしまいましたが、エンジンルーム内にはアドブルー液が漏れ出ていて結晶化している状況でした。
原因:SCRシステム+NOxセンサーの複合的な不具合
このパターン、年式が進んだディーゼルベンツ(W213, W205, X253 など)で本当によく見かけます。NOxセンサーは経年劣化で故障しやすく、さらにアドブルータンク内のセンサー類やインジェクター周辺も劣化の影響を受けやすい部品。1個壊れているというより、システム全体がじわじわ寿命を迎えているというイメージに近いケースが多いです。
では部品交換で直すとどうなるか。NOxセンサーは1個あたり10万円前後で、E220dでは2個使われています。SCR本体やアドブルー側に不具合があれば、タンク内ポンプ・センサーなどで30〜50万円コースになることも。さらに最近は部品の入荷待ちが長期化していて、本国にも在庫が無く数ヶ月単位で車が使えなくなるケースも出ています。
ディーラーさんで一式見積もりを取ると、トータル100万円前後の提示になることも珍しくありません。「とりあえずまた乗れるようにしたい」「次の車検まで持たせたい」というお客様にとっては、現実的に厳しい金額ですしね。
そこで今回は、ECUデータ書き換えによるアドブルー無効化(撤廃)プログラムで進めてまいります。
解決策:AdBlue無効化プログラム作業

作業デスクにセットしたECU。今回はBENCH方式で外部接続し、専用ハーネス経由でデータの読み書きを行います。ケースを開けずに済むので、基板へのダメージリスクを最小化できます。

FLEX(MagicMotorsport)でBENCH接続完了。プロトコル番号も認識し、SUCCESSの表示。ここからオリジナルデータの吸い上げに入ります。

ECU内部のFULL BACKUP取得中。51%通過。書き換え作業の生命線はこの「元データの完全保全」にあります。

読み出し完了。保存はSave Allで全データを取得。当店ではこのオリジナルデータを複数箇所にバックアップする運用としています。万が一にもデータを失わない体制づくりは地味ながら最重要。
続いて、読み出したオリジナルデータをベースにアドブルー無効化用のデータを作成。チェックサム調整等の処理も済ませた上で、書き込みファイルとして整えます。

調整済みファイルのアップロード準備。

INT FLASH書き込み中。64%通過。ここは絶対に通信エラーが許されない工程なので、電源・温度・接続を見ながら静かに待ちます。

「Write Int Flash Finished」――無事に書き込み完了。SUCCESSの緑表示で一息つけるところ。電子の鼓動が聞こえてくるようです 笑。
作業後の結果:警告と故障コードがリセット
ECUを車両に戻し、最終チェック。XENTRYで再度全システムスキャンを行います。

N3/9エンジン(OM654用ME MRD1)の故障コード/イベント欄。「故障メモリには故障コードがメモリされていません」の表示ですって。
作業後は20〜30km程度の試運転を行い、警告再点灯がないこと、走行に違和感がないことを確認して完成です。
修理後の結果
● AdBlue関連の警告メッセージが消灯
● 「エンジン始動不可」のカウントダウン表示も解除
● XENTRYで関連DTC(P202D7A/P13DF00/P20F57A/P20F500/P3002DE)すべてリセット
● 部品交換と比較して大幅にコストダウン
● 通常走行に支障なし
「修理」ではなく「調整/撤廃」であることのご説明
当店のアドブルー作業は、故障した部品をそのまま元通りに直す「修理」ではありません。ECU内部のアドブルー関連制御を無効化(撤廃)したり、しきい値を調整したりすることで、警告点灯やエンジン始動制限を解除するという作業です。
そのため、本来排ガス浄化に使われていたAdBlueの機能はオフになります。これは部品入荷までの「つなぎ」として活用されるお客様もいれば、商用車のように稼働を止められない車両で恒久対策として選ばれるケースもあります。
部品が入荷した段階で正規の部品交換へ戻したい場合、当店で保管しているオリジナルデータを再書き込みすることで純正状態へ戻すことも可能です。
技術の発展途上性について
ディーゼル排ガス制御はメーカーごとに仕様が異なり、年式・型式・ECUバージョンによって作業内容も変わります。当店もECUチューニング・診断のネットワーク内で日々情報を共有しながら作業に当たっていますが、車両によっては想定外の挙動が出るケースもゼロではありません。
「絶対に消えます」「100%大丈夫です」と言い切れる作業ではないからこそ、入庫時のヒアリング・診断・データのバックアップ・試運転までを丁寧に積み重ねています。発展途上の技術領域である点は、誠実にお伝えしておきます。
参考データ・今回の作業内容
● 車種:メルセデスベンツ E220d
● 型式:LDA-213004C(W213)
● 年式:平成29年12月
● 走行距離:83,660km
● エンジン:OM654
● ECU:Bosch MD1CP001
● 接続方式:BENCH接続
● 使用ツール:FLEX(MagicMotorsport)/XENTRY系診断機
● 作業内容:オリジナルデータ吸い出し→フルバックアップ→AdBlue撤廃データ書き込み→DTC消去→試運転
ご依頼ありがとうございました。
今回の作業は部品の調達に時間がかかったり、チェックランプ点灯の裏に隠された重大エラーの事などを踏まえた作業となりますので、ご理解いただければ幸いです。
メルセデスベンツ以外でもBMW、フォルクスワーゲン、三菱ふそう(キャンター・ローザ)など商用車を含めて対応可能な場合がありますので、NOxやアドブルーでお困りでしたらお問い合わせお待ちしております。
丁寧な整備を心がけておりますので、ひとつひとつの作業にどうしても時間がかかってしまいます。
重要な補足説明
毎回お伝えしていますが、この作業は「修理」とは言えないと考えています。
NOx・AdBlueの部品は、どちらも高額なうえに欠品していることが多く、「直したくても直せない」状態でお困りの方を数多くお見受けします。そこで、プログラムを少し“調整”したり、部品が入荷するまで動かせないお車に限って、一部の機能だけを一時的に“撤廃”したりして、お車を使えるようにするのがこの作業です。
エンジンチェックランプが点いている原因がわかっていても、NOxやAdBlueの警告で点灯し続けている状態では、まったく別の重大なトラブルが起きても、ドライバーさんは気づくことができません。
そこで、過敏に反応する設定になっている“閾値(いきち)”に少しだけ幅を持たせ、チェックランプの点灯を一時的に抑えます。本当に重大なトラブルが起きたときに早く気づけるよう、チェックランプ本来の「お知らせ」の役割を取り戻すための作業です。
部品が欠品・納期未定で車が動かせない(スターターロックが作動してエンジンがかからない)ときなどに、部品が届くまでの一時的な緊急対策として行うものです。部品が入荷したら、元のプログラムに戻して部品を交換することをおすすめしています。ご依頼の際は、この点をご理解ください。
この技術は、まだ発展途上です
ほとんどのお車で成功していますが、ごくまれに、エラーが消えない、スターターロックが再び作動するといったことが起こる可能性は、ゼロではありません。
この作業ができるネットワークは、今では10社まで広がり、これからも広がっていく見込みです。お互いに情報を共有し、ときにはトライ&エラーを重ねながら、全員で前に進んでいます。
まだ完璧に仕上がった技術ではないため、その「ごくまれ」なケースに当たり、ご迷惑をおかけしてしまうこともあるかもしれません。そんなときこそネットワークを生かし、施工する仲間たちと知恵を出し合って、精一杯対応いたします。全員が本気で取り組んでいますので、温かく見守っていただければ幸いです。
もちろん、そうしたことが起こらないよう、日々学び、腕を磨き続けています。「依頼してみたい」と思っていただけたら、お気軽にお問い合わせください。
オートプラネット 篠塚
AdBlueの警告でお困りの方へ
「あと数百キロでエンジンがかからなくなる」という警告。その不安を抱えたまま運転するのは、とてもストレスがかかるものです。
ディーラーさんでの高額修理に悩んでいる方も、まずは一度ご相談ください。
遠方の方でも、コンピューター(ECU)をお送りいただければ施工可能です。本来の落ち着いた状態で安心して乗れるよう、状況に合わせてアドバイスいたします。
故障で動かせないときは、引き取りに伺います
ご加入の自動車保険(任意保険)のロードサービスを使って、ご自宅や現地から当店までレッカーで搬送できます。遠方の方もご相談ください。
- ご利用は無料
- 等級に影響なし
- 保険料に影響なし
こんな症状のときに
修理後の納車や、修理期間中のレンタカーも、保険の付帯サービスで使える場合があります。
内容はご加入の保険によって異なります。お手元に保険証券をご用意のうえ、必ず事前にご相談ください。
修理費用によっては、お乗り換えも選択肢です。故障したままの状態でも買取できます。
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