今回のお車はメルセデスベンツGLC250(X253)。神奈川県横浜市からお越しのお客様で、走行距離は190,000km。
「エンジンが温まると、Dに入らずNに戻ってしまう」
「Dレンジで走行できず、ガコンと衝撃が出て3速のままギアが上がらない」
「でもバックは普通に入る」
──こんなご相談でのご入庫となりました。
一週間ほど前に他店でATFとストレーナーを交換されたものの症状は改善せず、当店のホームページを見つけてお電話をいただいたとのこと。「どこに頼めばいいのか分からなかった」というお声で、いますぐにでも見てほしい、というご事情でした。

診断と原因特定
まずはXENTRY(メルセデスベンツ純正診断機)で現在の状況を確認していきます。

検出されたDTCは以下の通り。
- P073E00 リバース・ギヤにシフトできません
- P07B700 プレッシャー・センサのシグナルが妥当でありません
- U012600 ステアリング・コラム・モジュールとのコミュニケーションに機能障害
最後のU012600はステアリング系のコード。今回のシフトトラブルとは別系統ですので、ここはひとまず切り離して進めます。
注目すべきはP073E00とP07B700の組み合わせ。これ、メルセデス9Gトロニック(725.0/VGS-NAG3)では結構な頻度でセットで検出されるパターンです。
ざっくり言うと、9Gトロニック内部にあるプレッシャーセンサーが油圧の情報をTCU(トランスミッションコントロールユニット)に正しく伝えられなくなっている状態。このセンサーは油圧をリアルタイムで監視している”心臓部のセンサー”のような存在で、ここの信号が狂うとTCUは適切なギア制御ができなくなります。
結果として、Dレンジに入れても正常な変速制御ができず、フェイルセーフモード(3速固定)に移行することがあります。今回のお客様の「Dで走り出してもギアが上がらない」という症状も、まさにこれですね。
故障原因は、センサー内部のメンブレン(小さな膜状の部品)の経年劣化。特に油温が70〜80℃を超えるとメンブレンが変形して信号が乱れる傾向があり、お客様申告の「エンジンが温まると症状が出る」と完全に辻褄が合います。
ここで一点、誤解を防ぐために補足を。
「P073E00 = リバース・ギヤにシフトできません」というコード名だけ見ると、「うちの車はバックには普通に入るから違うのでは?」と感じる方もいらっしゃるかと思います。実際、今回のお客様もバックは普通に入っていました。
ただ、このP073E00というコードは「実際にRレンジに入らない」という意味ではなく、TCUが油圧を妥当性確認できなくなった結果としてシステム側が格納するエラー。実車側の動作と表記がそのまま一対一で対応するわけではない、というケースです。診断機のコード名だけを追いかけると遠回りになります。
他店でATFとストレーナーを交換されても症状が消えなかった理由もここにあります。ATFの劣化や量の問題ではなく、内部の電子部品が原因のため、油脂類のメンテナンスだけでは解決しないわけです。ATF量・汚れに異常もなく、電子制御の領域で何かがズレている──そんな状態でした。
プレッシャーセンサーの故障で間違いないので、作業を進めてまいります。
作業内容
車両をリフトアップ。まずはATFの排出からです。

9Gトロニックは下面にレベルパイプがあり、SSTで4段階のポジションを切り替えながら油量を扱う構造。7Gトロニックの頃とは勝手が違うところで、専用工具なしには触れません。
続いてオイルパンを取り外し、メカトロニクスを切り離していきます。


このユニットの中に、今回の故障箇所であるプレッシャーセンサーが組み込まれています。

このプレッシャーセンサー、メーカーからは単体での部品供給がありません。本来であればメカトロアッセンブリーごと交換になる部品で、その場合はとても大きな費用負担になってしまいます。
そこでお客様とご相談の上、センサー単体での交換にて対応しました。


センサー単体での交換が想定されていない部品ですので、基板側の細かな加工・調整を行いながら慎重に作業を進めます。

センサーの交換が完了したら、いよいよメカトロを車両側へ取り付けていきます。

メカトロ取り付け時のボルトには、メーカー指定の締め付けトルクが定められています。ここを感覚で締めてしまうと、油圧漏れやセンサーの動作不良、最悪の場合は再発の原因にもなりかねないところ。
当店では一本一本トルクレンチで規定値通りに管理しながら締結しています。地味な作業ですが、9Gトロニックのような精密ユニットでは、ここを省略するとせっかくのセンサー交換が台無しになりかねません。慎重に進めていきます。
メカトロを取り付けたら、続いてオイルパンを組み付けていきます。

9Gトロニックのオイルパンは樹脂製で、ATFフィルター(ストレーナー)が一体になっているのが特徴。フィルター単体での交換ができないため、整備時はオイルパンごと新品にするのが基本となります。


続いてXENTRYで油量調整に入ります。


9Gトロニックの油量調整は7Gトロニックに比べてちょっと複雑です。Pos.1から4まで段階的に進めながら、診断機の指示通りに油量を合わせていきます。

診断機の指示通りに進め、規定量を充填して油量調整が完了。ここまでで作業はひと段落です。
仕上げ・確認作業
最後に再診断と試運転です。

P073E00、P07B700ともクリア。試運転ではエンジンを温めて症状が出ていた状態を再現してみますが──
Dに入らずNに戻る症状は完全に消失。Dレンジへのシフトはスムーズで、3速固定で止まることもなく、各段への変速も問題なし。嘘のように普通の9Gトロニックに戻りました。
これで修理は完了となります。
参考データ・主な作業内容
メルセデスベンツ GLC250(X253/DBA-253946)
初年度登録:平成28年3月
施工時走行距離:190,000km
- 検出DTC:P073E00/P07B700
- 真因:9Gトロニック内部プレッシャーセンサー(Y3/8b5)の信号異常
- 作業内容:プレッシャーセンサー単体交換/メカトロ取り付け時のトルク管理/オイルパン(フィルター一体型)新品交換/ATF補充/XENTRYによる油量調整
ご依頼ありがとうございました。
丁寧な整備を心がけておりますので、ひとつひとつの作業にどうしても時間がかかってしまいます。
急いで作業を行えばヒューマンエラーにもつながりますし、ミスを無くすためにも1〜2週間程度のお時間をいただいております。
どうぞご協力お願いいたします。
● 初めての問い合わせで不安な方
● 車の修理をしたいけど迷っている方
● どこのお店に依頼していいかわからない方
経験豊富な整備士が適切なアドバイスをいたします、遠慮なさらずにお問い合わせください。
同じ症状でお困りの方へ
「Dレンジに入らない」「Nに戻ってしまう」「変速ショックが大きい」「3速固定(フェイルセーフ)になる」などの症状は、ミッション本体(機械部品)の故障と思われがちですが、近年の輸入車多段ATではメカトロニクス内部の小さなセンサーやソレノイドが原因のケースがほとんどです。
車種・型式(W213/X253など)/症状の出る条件(冷間時・温間時など)/警告灯の有無/DTC(分かれば)をお知らせいただくとご案内がスムーズです。
お問い合わせ・ご相談
輸入車の多段AT・DSGトラブルでお困りではないですか?
メルセデスベンツの9Gトロニック(725.0)/7Gトロニック、BMWのZF 8HP、VW・アウディのDSGなど、近年の輸入車多段AT・自動変速機はメカトロニクス(電子制御一体型バルブボディ)を内部に持ち、小さな電子部品ひとつの不具合が大きなシフトトラブルにつながります。
ディーラーや一般整備工場では「ミッションアッセンブリー交換」「メカトロアッセンブリー交換」として高額な見積もりになりがちですが、当社では原因部品をピンポイントで切り分け、必要な範囲だけを修理することで、ご負担を抑えた対応が可能です。
お電話でのご相談:048-798-2922
(受付時間 月〜土 9:00〜18:00)
修理のお見積もり後、もし金額面でお乗り換えをご検討される場合は
故障した状態のままでも当店で買取が可能です。
故障トラブルでお困りの方へ
ご自宅・現地まで引き取りに伺います!!
当社で保険会社のロードサービスをご利用できるようになりました。
・ご利用は無料
・等級に影響なし
・保険料に影響なし
・エンジンチェックランプ点灯
・見慣れない警告表示やランプ点灯
・オイル漏れ
・水漏れ
・焦げ臭い
・変な音
・変な振動
・エンジンがかからない
・変速ができない
・変速ショックが大きい
・動かすことができない
・なにかいつもと違う
など…
お手元に保険証券をご用意いただき、必ず事前にご相談ください。

