整備の現場では、自社の設備だけでは対応しきれない領域に出会うことがあります。今回ご依頼いただいたメルセデスベンツG350d(W463)も、まさにそうしたケースでした。
埼玉県内で日頃からお付き合いのある同業者様(整備工場様)からのご相談で、「AdBlueの警告が出て、メーター表示では残り753kmでエンジンが始動できなくなる」とのこと。ご自身の工場でも一通りの診断はされていたようですが、SCR/AdBlue系の原因特定からECUプログラムでの対応となると、専用機材と経験が必要になります。「これは餅は餅屋で」というご判断のもと、当店へお声がけいただきました。
早速お車をお預かりし、まずは現状の把握から着手しました。

入庫の経緯と症状
お預かり時、メーター内には「753km以内にエンジン始動不可」の表示が出ていました。走行距離は約60,400km。まだ数百キロの猶予はあるものの、このまま放置すればいずれエンジンが再始動できなくなる状態です。
同業者様も「うちで直せる範囲を超えている」という判断で早めに動いてくださったこともあり、カウントダウンが進行する前の段階でお預かりできました。

診断結果:検出されたDTC
XENTRYで診断機をつなぎ、詳細を確認していきます。


検出されたDTCは以下の通りです。
● P204F96:AdBlueシステム(シリンダ・バンク1)に機能障害。内部の構成部品の故障があります
● P14031F:AdBlueコントロールユニットに機能障害。一時的な故障があります
● P13E400:AdBlueシステムの機能障害のため、残りの走行距離が制限されています
● 13DF00:AdBlueシステムに機能障害があります
● 20E823:AdBlueシステム内の圧力が低すぎます

要するに、AdBlueシステム全体で複数の機能障害が同時に発生し、ECUがそれを受けて走行距離制限をかけている状態というわけです。単発の軽い警告ではなく、SCR周りで根が深いトラブルであることが、この時点でうかがえました。
原因:SCR/AdBlueシステムの経年劣化
今回のように複数のDTCが同時に出ているケースでは、AdBlueシステム内のセンサーやポンプ、配線まわりなど、複数の構成部品が経年劣化により同時多発的に不調をきたしていることが多く見られます。1か所を直しても別の箇所がすぐに反応してしまう、いわゆる「いたちごっこ」になりやすいのもこのタイプの特徴です。
こうした部品は高額な上に欠品も多く、部品調達だけで長期間車両が使えなくなってしまうケースも少なくありません。今回は同業者様のお客様の状況も踏まえ、部品交換ではなくECUプログラムによる対応で間違いないので作業を進めてまいります。
解決策:ECUプログラムによるAdBlue撤廃
同業者様とも相談させていただいた上で、AdBlueシステムに関する警告・走行距離制限をプログラムでキャンセルする「撤廃」という方法で作業を進めることになりました。





読み出したデータを元に、AdBlueを撤廃するデータへと書き換えていきます。


続いて、車両側のAdBlueモジュールまわりの作業に移ります。


作業後の結果
データの書き込みとモジュール側の処理が完了したところで、診断機を再接続して最終確認を行います。


試運転でも異常はなく、嘘のようにあの警告表示は消えていました。
作業後の結果
● AdBlue警告と走行距離制限が解除
● メーター表示は「故障はありません」に回復
● エンジンチェックランプも消灯
● 診断機の排気ガス後処理数値も正常な予測値に回復
● 同業者様も安心してお客様にお車をお戻しできる状態に
今回の作業まとめ
● メルセデスベンツG350d(W463)、走行距離約60,400km
● AdBlue警告「753km以内にエンジン始動不可」の表示で入庫
● DTC:P204F96、P14031F、P13E400、13DF00、20E823(いずれもAdBlue/SCR系)
● ECU(Bosch EDC17CP57)をBENCH接続し、フルバックアップ後にAdBlue撤廃プログラムを書き込み
● AdBlueモジュール側の分離作業も実施
● 作業後、メーター表示・診断機の実測値ともに正常な状態へ回復
● 埼玉県内の同業者様からのご依頼で対応
今回の作業は、AdBlueシステムそのものを新品部品に交換する「修理」ではなく、ECU内のプログラムを調整し、AdBlueに関する警告・走行距離制限をキャンセルする「撤廃」という位置づけの作業です。センサーやポンプ等の部品を交換するわけではないため、費用や納期の面でメリットがある一方、原因となった部品そのものは車両に残ったままになる、という点はご理解いただく必要があります。
ECUプログラムの調整技術は、日々アップデートが重ねられている発展途上の分野でもあります。当店でも新しい車種・年式に対応するたびに検証を重ねていますが、100%すべてのケースに対応できるわけではない、という点も正直にお伝えしておきます。
ご依頼ありがとうございました。
今回の作業は部品の調達に時間がかかったり、チェックランプ点灯の裏に隠された重大エラーの事などを踏まえた作業となりますので、ご理解いただければ幸いです。
メルセデスベンツ以外でもBMW、フォルクスワーゲン、三菱ふそう(キャンター・ローザ)など商用車を含めて対応可能な場合がありますので、NOxやアドブルーでお困りでしたらお問い合わせお待ちしております。
丁寧な整備を心がけておりますので、ひとつひとつの作業にどうしても時間がかかってしまいます。
重要な補足説明
毎回重ねてお伝えしておりますが、これを「修理」とは言えないと思っています。
NOxにしてもAdBlueにしても、部品はどちらもかなり高額である上に欠品している事が非常に多く、直したくても直せないという状態に陥っている方を非常に多くお見受けしています。
それをプログラムで少し”調整”してあげたり、部品が入荷するまで運用出来ないお車を一部機能に付いてのみ一時的に”撤廃”作業を施して運用出来る様にするというものです。
いま点灯しているエンジンチェックランプの点灯原因・内容が分かってはいるものの、NOxやAdBlueがチェックランプを点灯させ続けている状態では、全く別の重大なトラブルが発生したとしてもドライバーさんは気付く事が出来ません。
なので、過敏に反応する設定となっている”閾値”(いきち)を少しだけ幅を持たせた値に調整する事でエンジンチェックランプの点灯を一時的に抑えることで、それとは全く別で発症した”本当に重大なトラブル”にドライバーさんが早く気付く事が出来るように、本来の意味としての「エンジンチェックランプ」点灯お知らせ機能を取り戻す作業です。
部品が欠品中で納期未定の為車が動かせない(スターターロックが発動してエンジンがかからない)などの場合での、部品が入るまでの一時的な緊急対策措置である事をご理解いただき、部品が入荷した際には元のプログラムに戻して部品を交換するという事を弊社ではお勧めしております。
同作業をご希望される方は、その辺りをご理解下さい。
この技術・情報はまだまだ発展途上の所もあります。
殆どが成功し続けて行く中、それでもごくごく稀にエラーが消えないとか、スターターロックが再発動するとか、そんな事が起こるのがゼロではありません。
この一連の作業内容ができるネットワークは今や10社まで広がり、まだ更に広がる可能性を含んでいます。そしてお互いに情報を共有しつつ、時にはトライ&エラーを続けながら全員で前に進んでいます。
現況では完璧に仕上がった技術では無い事や、もしかするとその「ごく稀」な案件に当たってしまう事もあるかも知れません。不本意ながらご迷惑をおかけしてしまう事だってあると思います。
そんな時こそそのネットワークを駆使し、施工している仲間たちで知恵を絞り出し合って、精一杯対応させて頂きます。全員が本気で取り組んでいますので、暖かい気持ちで見守っていただければ幸いです。
もちろん、その様な事が起こらない様に、日々学び、日々ステップアップし続けていますので、もし「依頼してみたい」と思って頂けた方は、お問い合わせ下さい。
AdBlueの警告でお困りの方へ
「あと数百キロでエンジンがかからなくなる」という警告。その不安を抱えたまま運転するのは、とてもストレスがかかるものです。
ディーラーさんでの高額修理に悩んでいる方も、まずは一度ご相談ください。
遠方の方でも、コンピューター(ECU)をお送りいただければ施工可能です。本来の落ち着いた状態で安心して乗れるよう、状況に合わせてアドバイスいたします。
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