「比較的新しい低走行のお車でも、アドブルーの警告は出るんです」――プジョーやシトロエンの BlueHDi オーナーからのお問い合わせで、最近そうお伝えする機会が増えています。
今回のご連絡は群馬県太田市のお客様から。きっかけは当店のブログで同じグループのプジョー リフターの事例記事をご覧になり、「うちのベルランゴとほとんど同じ症状です」とお問い合わせをいただきました。
車両はシトロエン ベルランゴ(K9型/2020年式/走行距離 35,800km)。メーターには「Engine fault: Repair needed」に加えて、AdBlue の「Starting impossible in 100km」(あと100kmで始動不可)というカウントダウンまで発動している状況でした。走行はまだ3万キロ台。比較的新しいお車でも、こうしたトラブルは起こり得るわけです。
土曜日しかお時間が取れないとのことで、ご加入中の自動車保険ロードサービスを利用して積載車で引き取りに伺いお預かりとなりました。

入庫の経緯と症状
お客様はもともと、当店のリフター事例記事をかなり読み込まれていて、「これは自分の車と同じ状況だ」と早い段階で気づかれていました。エンジンの調子そのものは特に悪くないのに、メーターには警告が出続けている。その違和感からネットで情報を集め、当店にたどり着かれた、という流れです。
ご入庫時のメーター表示がこちらです。

しばらくすると、メーター中央の表示が切り替わり、AdBlue マークとともに「Emissions fault: Starting impossible in 100km」が出現。いわゆるアドブルーのカウントダウンです。

ベンツの場合は「残り◯◯km以内にエンジン始動不可」と日本語で表示されますが、プジョー/シトロエン/DS 系はこのように英語表示のことも多く、オーナー様が正しく意味を理解しないまま走ってしまい、気づいたら残りわずか、というケースも少なくありません。
この「あと100km」という数字も油断できないところがあります。表示はあくまで予測値で、0kmになる前に再始動できなくなるケースもございます。今回はお客様が状況をよく把握されていて、残り距離に余裕があるうちにご連絡をいただけたのが幸いでした。無理に自走させずに積載車で入庫が望ましいです。

診断結果:検出されたDTC
診断機をつないでエラー内容を確認していきます。今回、カウントダウンを発動させている本丸のDTCはこちらでした。
● P20EE:92 NOx還元システムの浄化(効果) — 性能または動作が適合しない
P20EE は、排気ガス中のNOx濃度を、AdBlue噴射によって所定のレベルまで下げられていない、と車両が判定している状態を示すコードです。後ろの「92」は、その不具合の性質を示す補足コードと考えていただければと思います。
ベルランゴやリフターに積まれている 1.5 BlueHDi は、AdBlue(尿素水)を排気に吹きかけて、NOx(窒素酸化物)を窒素と水に変えています。この一連の仕組みがSCRシステム。そのどこかで「うまく浄化できていない」と車両が判断すると、今回のようなコードと走行距離制限がセットで出てくる、という流れになります。
原因:SCR/NOx還元システムの機能低下
「走行3万キロ台なのに、もう?」と感じる方も多いのではないでしょうか。ところが、AdBlue/SCR系のトラブルは走行距離だけで決まるものではなく、低走行のお車でも発症するケースは少なくありません。
P20EE が厄介なのは、これが「SCRのNOx還元効率が規定値を下回っている」という”結果”を示す判定コードだという点。原因となりうる箇所は、NOxセンサー、AdBlueインジェクター、AdBlueポンプ、SCR触媒本体、上流側の排気漏れなど複数箇所にまたがっていて、DTCだけでは主因を一つに絞り込めません。
P20EE の原因として、プジョー/シトロエンの BlueHDi でよく現場に挙がるのは次のあたりです。
● NOxセンサー(上流/下流)の鈍化や故障
● SCRインジェクター(AdBlue噴射)の詰まり・スプレー不良
● AdBlueポンプの圧力不足や劣化
● SCR触媒そのものの機能低下
● 排気系の微小リークによる誤検知
いずれも「走行距離より使用年数」「短距離走行の多さ」で進行する傾向があり、3万キロ台という距離でも十分に発症します。
部品交換の現実
仮に正攻法で部品交換を重ねていく場合、プジョー/シトロエンのAdBlue関連部品は、車種や故障箇所によってまとまった金額になることがあります。
● NOxセンサー:1本あたり数万円〜10万円前後、車両によっては複数本の交換になることも
● AdBlueポンプ/インジェクターASSY:十数万円〜数十万円規模
● SCR触媒(マフラー一体型):高額になるケースもある
……という金額感です。しかも部品そのものが本国欠品で数ヶ月待ちになるケースも珍しくなく、その間はカウントダウンが進んでいずれエンジン始動不可。日常の足として使えない期間が長期化するのは避けたい、というお客様がほとんどです。
お客様とご相談の結果、今回は部品の入荷を待つあいだ車に乗れなくなる事態を避けたいというご意向を受けて、AdBlue/SCRシステムの無効化プログラムで対応する方針で作業を進めました。
解決策:BENCH接続によるECU調整
リフター/ベルランゴ/コンボなどの 1.5 BlueHDi に搭載されているのは、ボッシュの MD1CS003。近年の欧州車に広く採用されている新世代のECUで、セキュリティが強化されているため2022年あたりから書き換えには制限があります。
そのため、作業はECUを車両から取り外し、FLEXツールに直接結線する BENCH接続での対応となります。ケースを開封する BOOT接続までは必要なく、ECU外部のコネクタに専用ハーネスを差し込む形です。


1. 接続の確立とオリジナルデータの読み出し
まずはECUとの通信を確立し、中身をそのまま吸い出します。書き換え作業は”元に戻せる状態”を確保してからが鉄則です。


2. フルバックアップの保存
読み出しが完了すると保存ダイアログが出ます。読み出したデータは当店内の複数箇所に分散してバックアップを保存しています。万が一の紛失や破損にも対応できるよう、データの管理はかなり気を使っているところです。


3. 無効化データの作成と書き込み
吸い出したオリジナルデータを元に、AdBlue/SCR関連の判定ロジックを調整した書き込み用データを作成。準備が整ったら ECU へ書き戻します。


作業後の結果
ECU を車両に戻し、診断機でDTCをクリア。試運転を行った上でメーター表示を確認しました。あれだけ点いていたAdBlue警告とエンジン警告灯が、嘘のようにすっきり消えていました。

修理後の結果は以下のとおりです。
● AdBlueカウントダウン表示(Starting impossible in 100km)が解除
● 「Engine fault: Repair needed」メッセージも消灯
● エンジンマネージメントECUのDTC(P20EE)クリア済み
● 試運転で再発がないことを確認
● 部品交換による高額修理を回避し、コストを大幅に抑えて対応完了
低走行のお車でしたので、これからもまだまだ活躍してくれるはずです。安心してお乗りいただければ何よりです。
作業にあたっての注意事項
今回のプログラム調整は「修理」ではなく、SCR関連の判定を無効化することで警告とカウントダウンを止める”調整/撤廃”作業です。センサーやインジェクターそのものを新品に直しているわけではない、という点はきちんとお伝えしています。
そのうえで、部品の入荷状況が改善した際には、正規の部品交換に切り替えていただくこともできます。当店で施工した車両であれば、バックアップしたオリジナルデータでプログラムを元に戻した上での対応も可能です。
また、AdBlue/SCR関連の ECU 調整は、メーカーや ECU のバージョン、車両の個体差によって挙動が変わるケースがあり、現在進行形で研究が続いている領域でもあります。同業者ネットワーク内での情報共有を続けながら、改善を重ねているのが正直なところです。
なお、AdBlue/SCRシステムの調整・撤廃については、お車の使用環境や各種法令との関係をご自身でご確認・ご判断いただく必要があります。当店で施工した車両においては警告の解除を確認しておりますが、最終的な適合性の判断はお客様にお任せする形となりますので、その点はあらかじめご理解いただければ幸いです。
今回の作業まとめ
● お客様:群馬県太田市
● 車両:シトロエン ベルランゴ(K9)/2020年式/走行距離 35,898km
● ECU:Bosch MD1CS003
● 接続方式:BENCH接続(FLEXツール)
● 症状:Engine fault 表示、AdBlue「Starting impossible in 100km」カウントダウン
● DTC:P20EE:92(NOx還元システム浄化性能)
● 対応:AdBlue/SCR 無効化プログラムによる調整
お問い合わせについて
ご依頼ありがとうございました。
今回の作業は、部品の調達状況やチェックランプ点灯の裏に隠れた他エラーの確認なども踏まえた上で進めておりますので、日数をいただく場合があります。ご理解いただければ幸いです。
シトロエンやプジョーはもちろん、メルセデスベンツ、BMW、フォルクスワーゲン、アウディなどの輸入ディーゼル車も対応可能な場合があります。NOx やアドブルーでお困りでしたら、お気軽にお問い合わせください。
● 初めての問い合わせで不安な方
● 高額見積もりを提示されて迷っている方
● どこのお店に依頼していいか分からない方
経験豊富な整備士が、状況に合わせたアドバイスをいたします。遠慮なさらずにお問い合わせください。
重要な補足説明
毎回重ねてお伝えしておりますが、これを「修理」とは言えないと思っています。
NOxにしてもAdBlueにしても、部品はどちらもかなり高額である上に欠品している事が非常に多く、直したくても直せないという状態に陥っている方を非常に多くお見受けしています。
それをプログラムで少し”調整”してあげたり、部品が入荷するまで運用出来ないお車を一部機能に付いてのみ一時的に”撤廃”作業を施して運用出来る様にするというものです。
いま点灯しているエンジンチェックランプの点灯原因・内容が分かってはいるものの、NOxやAdBlueがチェックランプを点灯させ続けている状態では、全く別の重大なトラブルが発生したとしてもドライバーさんは気付く事が出来ません。
なので、過敏に反応する設定となっている”閾値”(いきち)を少しだけ幅を持たせた値に調整する事でエンジンチェックランプの点灯を一時的に抑えることで、それとは全く別で発症した”本当に重大なトラブル”にドライバーさんが早く気付く事が出来るように、本来の意味としての「エンジンチェックランプ」点灯お知らせ機能を取り戻す作業です。
部品が欠品中で納期未定の為車が動かせない(スターターロックが発動してエンジンがかからない)などの場合での、部品が入るまでの一時的な緊急対策措置である事をご理解いただき、部品が入荷した際には元のプログラムに戻して部品を交換するという事を弊社ではお勧めしております。
同作業をご希望される方は、その辺りをご理解下さい。
この技術・情報はまだまだ発展途上の所もあります。
殆どが成功し続けて行く中、それでもごくごく稀にエラーが消えないとか、スターターロックが再発動するとか、そんな事が起こるのがゼロではありません。
この一連の作業内容ができるネットワークは今や10社まで広がり、まだ更に広がる可能性を含んでいます。そしてお互いに情報を共有しつつ、時にはトライ&エラーを続けながら全員で前に進んでいます。
現況では完璧に仕上がった技術では無い事や、もしかするとその「ごく稀」な案件に当たってしまう事もあるかも知れません。不本意ながらご迷惑をおかけしてしまう事だってあると思います。
そんな時こそそのネットワークを駆使し、施工している仲間たちで知恵を絞り出し合って、精一杯対応させて頂きます。全員が本気で取り組んでいますので、暖かい気持ちで見守っていただければ幸いです。
もちろん、その様な事が起こらない様に、日々学び、日々ステップアップし続けていますので、もし「依頼してみたい」と思って頂けた方は、お問い合わせ下さい。
AdBlueの警告でお困りの方へ
「あと数百キロでエンジンがかからなくなる」という警告。その不安を抱えたまま運転するのは、とてもストレスがかかるものです。
ディーラーさんでの高額修理に悩んでいる方も、まずは一度ご相談ください。
遠方の方でも、コンピューター(ECU)をお送りいただければ施工可能です。本来の落ち着いた状態で安心して乗れるよう、状況に合わせてアドバイスいたします。
修理のお見積もり後、もし金額面でお乗り換えをご検討される場合は
故障した状態のままでも当店で買取が可能です。
故障トラブルでお困りの方へ
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