今回のお車はメルセデスベンツ GLCクーペ220d(LDA-253305C/2017年8月・走行77,191km)。栃木県宇都宮市のオーナー様からのご相談です。
「AdBlueを補充してください」のメッセージが出たので、ご自身で約20リットルを補充。ところがメッセージは消えず、それどころかカウントダウンが始まってしまったとのこと。販売店さんで点検を受けたところ、提示された修理見積は約70万円。補充したのに直らない、しかも70万円。ここで一度、手が止まってしまったそうです。
ここまでは当社にも比較的よくあるご相談なのですが、今回は診断を進めた段階で「これは記事にしてお伝えしておかないとまずい」という事実が出てきました。メーター内に表示されているカウントダウンの距離と、診断機が示している距離が、まったく違っていたわけです。

入庫の経緯|20リットル補充しても、メッセージは消えなかった
AdBlue液は減れば補充するというのが本来の付き合い方。ですので「補充してください」と出たら補充する、というオーナー様の対応はまったく正しいものでした。
ところが今回は、20リットルという決して少なくない量を入れても表示が消えない。それどころか残り走行距離のカウントダウンが始まってしまいました。

こうなると、残量の問題ではありません。補充しても消えないということは、液量以外のどこかで「AdBlueが正常に機能している」という判定が成立していない、というケースが多いわけです。
診断結果|メーターは552km、診断機は30km
さて、ここからが今回の本題です。XENTRYで車両側の状態を確認していきます。

検出されたDTC
● P14031F 「AdBlue®」コントロール・ユニットに機能障害があります。一時的な故障があります。
● P13E100 AdBlue®充填レベルが低いため、残りの走行距離が制限されています。
P13E100はメーターの表示内容とも一致していますので、ここまでは想定通り。問題は、もう一歩踏み込んで実測値を見たときでした。

30km。メーター内は552kmと表示していたのに、制御側が持っている数字は30kmでした。
この数字のズレが、なぜ怖いのか
メーター内のメッセージは、オーナー様に補充を促すための「案内」という性格が強い表示です。一方で診断機の実測値30kmは、制御側が内部で持っている走行可能距離の残値。今回のようにAdBlueコントロール・ユニット側に機能障害(P14031F)が出ている状況では、この2つが同じ数字にならないことがある、という判断をしています。
なぜズレるのか、その仕組みまでは現時点で断定できません。ただ、当社の実測として「メーターは552kmと出しているが、制御側は30kmで見ている」という状態が確かに存在した。これは事実として残しておくべきだと考えました。
怖いのはここからです。メーターの552kmを信じて、あと数日は大丈夫だろうと走り続けた場合。制御側が0と判断した時点でスターターロック、つまり再始動禁止がかかる恐れがあります。メーター上はまだ余裕があるように見えているのに、です。
しかもこれは「エンジンを切った瞬間」に効いてくる話。コンビニの駐車場でも、高速道路のサービスエリアでも、一度エンジンを止めたらそこから動かせなくなる可能性があるわけです。今回のお車も、メーターの数字を信頼して遠出をされていたら、宇都宮から当社まで自走でお越しいただくことすら難しかったかもしれません。
部品交換という選択肢と、その現実
もちろん、本来であれば故障している部品を交換するのが正攻法です。ただ、この部分の費用感が厳しいのが実情でして。
● NOxセンサーは1つ10万円前後。エンジンにより2〜3個使用されており、交換費用が20〜30万円以上になることもあります
● AdBlueタンク内のポンプやセンサー類の故障も多く、こちらは30〜50万円位になることも
● 部品の調達が困難で、本国にすら在庫がない事もあり、その期間は車の使用ができなくなってしまいます
今回、販売店さんで提示された約70万円というお見積りも、決して不当な金額ではありません。必要な部品を正規のルートで揃えて交換すれば、そのくらいになってしまうというだけの話です。ただ、オーナー様としてはその金額を前に立ち止まってしまった。そこで当社にご相談いただいた、という流れになります。
作業内容|ECUを取り外してBENCHモードで
お客様と協議した結果、今回はプログラムでの調整で進める方針となりました。作業を進めてまいります。


今回は車上での通信ではなく、ECUを取り外して作業台に乗せる「BENCHモード」での作業です。





オリジナルデータを確保したら、そこからAdBlue関連の調整データを作成して書き戻します。


作業後の結果
ECUを車両に戻し、診断機で最終チェック。そして試運転へ。

入庫時に30kmだった数字が、2380km。ここが変わらないことには意味がありませんので、まずは一安心といったところ。

同じ症状でお困りの方へ|メーターの数字は「目安」と考えてください
今回のケースで一番お伝えしたいのは、修理の内容そのものよりも、この一点です。
メーターに表示されるカウントダウンの数字と、診断機で読み取れる走行可能距離予測は、一致しないことがあります。今回は552kmと30km。オーナー様は「まだ500km以上走れる」と認識されていましたが、実際には30kmしか猶予がなかったわけです。
ですので、AdBlueの警告でお困りの方には、次のように考えていただければと思います。
● 補充してもメッセージが消えない場合、残量以外の原因が絡んでいる可能性が高い
● メーター内のカウントダウンは、診断機の数値と一致しないことがある
● 表示上まだ距離に余裕があっても、それを前提に予定を組まない方が安全
● エンジンを止めた後に再始動できなくなる恐れがあるため、遠出は控えていただきたい
● 迷った時点で、まずは診断機で実際の数値を確認するのが確実
「あと500kmあるから週末に見てもらおう」と考えていたら、その前に止まってしまった。そうなる前にご相談いただければ、選べる選択肢も増えます。
今回の作業まとめ
● 車種:メルセデスベンツ GLCクーペ220d(LDA-253305C/2017年8月/走行77,191km)
● 症状:AdBlueを約20L補充しても警告が消えず、カウントダウンが開始
● 検出DTC:P14031F(AdBlueコントロール・ユニットの機能障害)/P13E100(充填レベル低下による走行距離制限)
● 表示の相違:メーター内 552km に対し、診断機の走行可能距離予測は 30km
● 使用ECU:BOSCH EDC17CP57(BENCHモードにて作業)
● 作業内容:ECUを取り外してフルバックアップを取得後、AdBlue関連の調整データを書き込み
● 作業後:走行可能距離予測 30km → 2380km、メーター表示は「故障はありません」を確認
● 販売店見積:約70万円
今回の作業は「修理」ではなく「調整」または「撤廃」にあたるものです。壊れた部品が直ったわけではなく、システムの判定に使われる閾値(いきち)を調整することで、警告や走行距離制限が出ない状態にしている、という理解をしていただくのが正確です。
ですので、部品が入手できる状況にあり、ご予算にも余裕があるのであれば、本来は部品交換で対応されるのが本筋だという判断をしています。当社としても、そこは正直にお伝えするようにしています。今回のように部品代が高額になる、あるいは部品が手に入らないといった事情がある場合の、現実的な選択肢のひとつとお考えください。
また、この分野の技術はまだ発展途上です。車種や年式、ECUの種類によって作業内容は変わりますし、同じ車種でも同じ結果になるとは限りません。当社では整備ネットワーク内で情報を共有しながら、ひとつずつ検証を重ねている段階です。できること・できないことは、事前にはっきりお伝えいたします。
ご依頼ありがとうございました。
今回の作業は部品の調達に時間がかかったり、チェックランプ点灯の裏に隠された重大エラーの事などを踏まえた作業となりますので、ご理解いただければ幸いです。メルセデスベンツ以外でもBMW、フォルクスワーゲン、三菱ふそう(キャンター・ローザ)など商用車を含めて対応可能な場合がありますので、NOxやアドブルーでお困りでしたらお問い合わせお待ちしております。
丁寧な整備を心がけておりますので、ひとつひとつの作業にどうしても時間がかかってしまいます。急いで作業を行えばヒューマンエラーにもつながりますので、3日から1週間程度のお時間をいただいております。どうぞご協力お願いいたします。
重要な補足説明
毎回重ねてお伝えしておりますが、これを「修理」とは言えないと思っています。
NOxにしてもAdBlueにしても、部品はどちらもかなり高額である上に欠品している事が非常に多く、直したくても直せないという状態に陥っている方を非常に多くお見受けしています。
それをプログラムで少し”調整”してあげたり、部品が入荷するまで運用出来ないお車を一部機能に付いてのみ一時的に”撤廃”作業を施して運用出来る様にするというものです。
いま点灯しているエンジンチェックランプの点灯原因・内容が分かってはいるものの、NOxやAdBlueがチェックランプを点灯させ続けている状態では、全く別の重大なトラブルが発生したとしてもドライバーさんは気付く事が出来ません。
なので、過敏に反応する設定となっている”閾値”(いきち)を少しだけ幅を持たせた値に調整する事でエンジンチェックランプの点灯を一時的に抑えることで、それとは全く別で発症した”本当に重大なトラブル”にドライバーさんが早く気付く事が出来るように、本来の意味としての「エンジンチェックランプ」点灯お知らせ機能を取り戻す作業です。
部品が欠品中で納期未定の為車が動かせない(スターターロックが発動してエンジンがかからない)などの場合での、部品が入るまでの一時的な緊急対策措置である事をご理解いただき、部品が入荷した際には元のプログラムに戻して部品を交換するという事を弊社ではお勧めしております。
同作業をご希望される方は、その辺りをご理解下さい。
この技術・情報はまだまだ発展途上の所もあります。
殆どが成功し続けて行く中、それでもごくごく稀にエラーが消えないとか、スターターロックが再発動するとか、そんな事が起こるのがゼロではありません。
この一連の作業内容ができるネットワークは今や10社まで広がり、まだ更に広がる可能性を含んでいます。そしてお互いに情報を共有しつつ、時にはトライ&エラーを続けながら全員で前に進んでいます。
現況では完璧に仕上がった技術では無い事や、もしかするとその「ごく稀」な案件に当たってしまう事もあるかも知れません。不本意ながらご迷惑をおかけしてしまう事だってあると思います。
そんな時こそそのネットワークを駆使し、施工している仲間たちで知恵を絞り出し合って、精一杯対応させて頂きます。全員が本気で取り組んでいますので、暖かい気持ちで見守っていただければ幸いです。
もちろん、その様な事が起こらない様に、日々学び、日々ステップアップし続けていますので、もし「依頼してみたい」と思って頂けた方は、お問い合わせ下さい。
AdBlueの警告でお困りの方へ
「あと数百キロでエンジンがかからなくなる」という警告。その不安を抱えたまま運転するのは、とてもストレスがかかるものです。しかも今回のように、その数字が実際より長く見えているケースもあります。
販売店さんやディーラーさんでの高額なお見積りに悩んでいる方も、まずは一度ご相談ください。
遠方の方でも、コンピューター(ECU)をお送りいただければ施工可能です。本来の落ち着いた状態で安心して乗れるよう、状況に合わせてアドバイスいたします。
修理のお見積もり後、もし金額面でお乗り換えをご検討される場合は
故障した状態のままでも当店で買取が可能です。
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