三菱ふそうキャンター TPG-FBA00 外観

今回のお車は三菱ふそうキャンター(TPG-FBA00)。埼玉県越谷市の運送会社様が、毎日の配送に使われている現役の一台です。

「仕事で使っている車なので、なんとか3日で仕上げてほしい」とのこと。トラックが1日でも動かせなくなれば、その分の荷物が運べず、日々の売上にも、配送先とのお約束にも穴が空いてしまいます。代わりの車をすぐ手配できるわけでもありません。商用車ならではの、時間との戦いなわけです。

走行距離はすでに196,585km。よく走り込んだ車体に、AdBlue関連の警告とエンジンチェックランプが点灯していました。まずは現在のエラー内容を確認して、そこから対策を組み立てていきます。

入庫の経緯と症状

ご相談の内容を整理すると、次のような状況でした。

● 仕事で毎日使っているので、とにかく早く直したい(3日以内の希望)
● 修理しても何度の立ち上げるAdBlue関連の警告にうんざりしている
● 走行距離は約20万km、年式は平成27年式

まずは車両をお預かりして、メーター内の状況から確認します。

キャンターのメーター 走行196585km 警告灯点灯

走行196,585km。よく走り込んだ現役の商用車で現在警告灯は点灯してない状態。

商用車として20万kmというのは、まだまだ現役で働ける距離です。ただ、これだけ走り込んでくると、排気関連のセンサー類が一つ、また一つと弱ってくるのも自然なこと。「どこか一箇所が壊れた」というより、複数の箇所がそろそろ限界に近づいている、というケースが多いわけです。

診断結果:検出されたDTC

XENTRY(診断機)を接続して、車両全体の故障コードを読み出していきます。

XENTRYによるキャンターの初期診断画面 DTC一覧

XENTRYでの初期診断。AdBlue温度センサをはじめ、複数のDTCが並びました。

XENTRY診断画面 履歴側のDTC確認

履歴側でも同じDTCを確認。単発ではなく、繰り返し記録されているエラーです。

今回検出された故障コードは、次の6件でした。

● 69F1FF(520553-31)システム・インフォメーション 1
● 6F1FFF(520559-31)システム・インフォメーション 7
● DBF0FF(520411-31)構成部品「プレグロー・システム コントロール・ユニット」の機能が正常ではありません
● EB0A0F(2795-15)構成部品「ターボチャージャ ポジション・センサ」により測定された値が高すぎます
● EB0A11(2795-17)構成部品「ターボチャージャ ポジション・センサ」により測定された値が低すぎます
● D70B01(3031-1)構成部品「AdBlue®温度センサ」のシグナル電圧が低すぎます

この中でAdBlueに直接関わっているのが、一番下の D70B01(AdBlue®温度センサ) です。ざっくり言うと、AdBlue(尿素水)の温度を測っているセンサーからの信号がおかしい、という内容。この信号が正常に取れないと、SCR(排気を浄化するシステム)が正しく働けず、チェックランプの点灯につながっていきます。

あわせて出ている「システム・インフォメーション」系のコードは、システム全体の状態を知らせるもので、AdBlue/SCR系の不具合とセットで記録されることの多いコードです。ターボチャージャのポジションセンサやプレグローのコードも並んでいますが、いずれも20万km級の車体では珍しくない、経年による信号のばらつきといった内容になります。

原因:複数箇所の経年劣化と、部品交換の現実

「なぜ、いくつものエラーが同時に出るのか」と感じる方も多いのではないでしょうか。

理由はシンプルで、これだけ走り込んだ車体では、排気系のセンサーや制御部品が同じように歳を重ねているからです。新車のときに一斉に付いた部品が、20万kmという同じ時間を走ってきたわけですから、弱り始めるタイミングが重なるのはむしろ自然なことなわけです。

そして、これを部品交換だけで解決しようとすると、なかなか大変です。

● AdBlue関連のセンサー類は、1つあたり数万円〜10万円前後することも珍しくない
● NOxセンサーは車両に複数使われていて、まとめて交換すると20〜30万円以上になることも
● AdBlueタンク内のポンプやセンサーになると、30〜50万円クラスになる場合もある

さらに商用車で頭が痛いのが、部品の供給です。三菱ふそうに限らず、この年式帯のディーゼル車は部品の調達が難しく、本国にも在庫がなく納期未定、というケースも少なくありません。その間、車は動かせず、仕事も止まってしまいます。

今回は「3日で仕上げたい」というお仕事の事情もあり、お客様と相談したうえで、部品の入荷を待つのではなく、ECUのプログラム調整で対応を進めることになりました。

解決策:BENCH接続でECUを読み出して調整

ここからが作業の中心です。今回はECUを車両から取り外し、BENCH(ベンチ)接続という方法で作業を進めていきます。

少しだけ技術的な話になりますが、ECUのデータを読み書きする方法にはいくつか種類があります。ECUのケースを開けて内部の基板に直接アクセスする「BOOT接続」もその一つですが、今回のキャンターに載っているECU(BOSCH EDC17CP52)は、ケースを開けずに作業できるBENCH接続に対応しています。

ざっくり言うと、ECUをケースごと車両から外して、車両側とつながっていたコネクタ部分に専用の配線を接続し、作業台(ベンチ)の上で読み書きする方法です。ケースを開けない分、基板そのものへ物理的に触れるリスクを抑えられるのが利点なわけです。どの方法が使えるかは、ECUの型式や世代によって変わってきます。

取り外したECUとFLEXツールのBENCH接続セットアップ

車両から取り外したECUを、FLEX(MagicMotorsport)を使ってBENCH接続する準備。

ECUのコネクタにBENCH用の配線を接続したところ

ECUのコネクタ部分に、BENCH用の配線を直接接続。ケースは開けずに読み書きします。

接続ができたら、まずはオリジナルのデータを丸ごと読み出します。ここは何よりも慎重に進める工程です。

FLEXでECUのフルバックアップを読み出し中

オリジナルデータの読み出し中。ECU内部の全データをフルバックアップします。

読み出したECUデータの保存ダイアログ

読み出したデータは保存して確保。紛失や消失がないよう、各所にバックアップを取る体制です。

ECUフルバックアップが成功した画面

フルバックアップが正常に完了(SUCCESS)。ここまで来て、ようやく書き込みの準備が整います。

オリジナルデータをしっかり確保したうえで、AdBlue/NOx関連の判定を調整したデータを書き込んでいきます。

調整データをECUに書き込み中の画面

調整したデータを書き込み中(WRITING INT FLASH)。

ECUへの書き込みが成功した画面

書き込み完了(SUCCESS)。ここまで問題なく進みました。

作業後の結果

書き込みが終わったECUを車両に戻し、診断機で最終チェックをして、実際に走らせて確認します。お仕事で使う車ですから、戻したあとに気持ちよく走れる状態かどうか、そこまで見て初めて「完成」です。

XENTRYによる作業後の最終診断 故障コードなしの画面

作業後の最終チェック。故障メモリを確認すると「故障コードがメモリされていません」——エラーはなし、ですって。

● 点灯していたAdBlue関連の警告・エンジンチェックランプへの対応が完了
● 部品の入荷を待たずに、車を止めずに対応できた
● お急ぎのご事情に合わせて、3日以内で現役復帰

部品交換で対応する場合と比べて、費用も日数もぐっと抑えられました。仕事の車を長く止められないお客様にとって、この「早さ」は大きな安心につながったのではないかと思います。

今回の作業まとめ

● 車種:三菱ふそうキャンター(TPG-FBA00/4P10)
● 走行距離:196,585km(約20万km)
● 症状:AdBlue関連警告+エンジンチェックランプ点灯
● 検出DTC:AdBlue®温度センサ(D70B01)、システム・インフォメーション(69F1FF/6F1FFF)、プレグロー(DBF0FF)、ターボチャージャ ポジション・センサ(EB0A0F/EB0A11)の計6件
● 対応:ECUをBENCH接続で読み出し、フルバックアップのうえ調整プログラムを書き込み
● 結果:警告解除・現役復帰。お急ぎのご事情に合わせて3日以内で完了

「修理」ではなく「調整・撤廃」という考え方

今回の作業は、故障した部品を新品に交換する「修理」とは少し違います。ECUのプログラムを調整して、AdBlueやNOx関連のシステムに対する判定の“閾値(いきち)”に、少しだけ幅を持たせるという方法です。

なぜこの調整に意味があるのか。エンジンチェックランプがAdBlueやNOxの不具合で点きっぱなしになっていると、その後にまったく別の重大なトラブルが起きても、ドライバーさんはランプの変化に気づくことができません。ずっと点いているランプは、警告としての役割を果たせないわけです。

過敏になっている判定に少し幅を持たせて、この“点きっぱなし”の状態を抑える。そうすることで、本当に重大なトラブルが起きたときに、チェックランプが改めて知らせてくれる——本来の「お知らせ機能」を取り戻すことができます。これが、単に警告を消すのとは違う、この作業のいちばん大事な意味だと考えています。

ご依頼ありがとうございました

ご依頼ありがとうございました。

今回はお仕事で毎日使う車ということで、お急ぎのご事情に合わせて3日以内で仕上げました。ただ案件によっては、部品の調達に時間がかかったり、チェックランプ点灯の裏に隠れた別のエラーを確認する必要があったりと、どうしてもお時間をいただく場合もあります。その点はご理解いただければ幸いです。

メルセデスベンツ以外でも、BMW、フォルクスワーゲン、三菱ふそう(キャンター・ローザ)など、商用車を含めて対応できる場合がありますので、NOxやアドブルーでお困りでしたらお問い合わせをお待ちしております。

重要な補足説明

毎回重ねてお伝えしておりますが、これを「修理」とは言えないと思っています。

NOxにしてもAdBlueにしても、部品はどちらもかなり高額である上に欠品している事が非常に多く、直したくても直せないという状態に陥っている方を非常に多くお見受けしています。

それをプログラムで少し”調整”してあげたり、部品が入荷するまで運用出来ないお車を一部機能に付いてのみ一時的に”撤廃”作業を施して運用出来る様にするというものです。

いま点灯しているエンジンチェックランプの点灯原因・内容が分かってはいるものの、NOxやAdBlueがチェックランプを点灯させ続けている状態では、全く別の重大なトラブルが発生したとしてもドライバーさんは気付く事が出来ません。

なので、過敏に反応する設定となっている”閾値”(いきち)を少しだけ幅を持たせた値に調整する事でエンジンチェックランプの点灯を一時的に抑えることで、それとは全く別で発症した”本当に重大なトラブル”にドライバーさんが早く気付く事が出来るように、本来の意味としての「エンジンチェックランプ」点灯お知らせ機能を取り戻す作業です。

部品が欠品中で納期未定の為車が動かせない(スターターロックが発動してエンジンがかからない)などの場合での、部品が入るまでの一時的な緊急対策措置である事をご理解いただき、部品が入荷した際には元のプログラムに戻して部品を交換するという事を弊社ではお勧めしております。

同作業をご希望される方は、その辺りをご理解下さい。


この技術・情報はまだまだ発展途上の所もあります。

殆どが成功し続けて行く中、それでもごくごく稀にエラーが消えないとか、スターターロックが再発動するとか、そんな事が起こるのがゼロではありません。

この一連の作業内容ができるネットワークは今や10社まで広がり、まだ更に広がる可能性を含んでいます。そしてお互いに情報を共有しつつ、時にはトライ&エラーを続けながら全員で前に進んでいます。

現況では完璧に仕上がった技術では無い事や、もしかするとその「ごく稀」な案件に当たってしまう事もあるかも知れません。不本意ながらご迷惑をおかけしてしまう事だってあると思います。

そんな時こそそのネットワークを駆使し、施工している仲間たちで知恵を絞り出し合って、精一杯対応させて頂きます。全員が本気で取り組んでいますので、暖かい気持ちで見守っていただければ幸いです。

もちろん、その様な事が起こらない様に、日々学び、日々ステップアップし続けていますので、もし「依頼してみたい」と思って頂けた方は、お問い合わせ下さい。


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