三菱ふそうキャンター 外観

茨城県の自動車整備工場様より、三菱ふそうキャンターのAdBlue関連で緊急のご相談をいただきました。

「お客様の仕事に欠かせないトラックなんです。アドブルーの警告灯が両方とも点きっぱなしで、このままだとエンジンがかからなくなるって表示が…」

走行距離は151,361km。商用車としてはまだまだ現役バリバリで活躍しているキャンターです。メーター内にはAdBlueのチェックランプが赤く点灯し、ドライバーさんも不安を抱えながらの運転が続いていたとのこと。

「部品交換だと何十万もかかるし、その後の関するトラブルも不安ある…なんとかならないでしょうか」

こうした商用車のAdBlueトラブルは、単なる車の故障ではなく、お客様の事業そのものに直結する問題です。一刻も早い対応が求められる案件でした。


入庫時の症状と診断結果

メーター内の警告灯点灯

メーター内には複数の警告灯が点灯。エンジンチェックランプが赤く点灯しています

入庫時の状況は以下の通りです:

  • AdBlueチェックランプ点灯(赤色)
  • AdBlue関連の警告
  • 走行距離:151,361km

まずは診断機を接続して故障コードを確認します。

入庫時の診断機画面6EF1FF (520558 31)

純正診断機XENTRYにて現在の状況をチェック

診断機で確認すると、故障コード 6EF1FF (520558 31) システム・インフォーメーション 6 [1] が検出されました。

📌 故障コード 6EF1FF とは?

このコードは三菱ふそうのディーゼル車で頻出するエラーで、主に以下のような状態を示しています:

  • AdBlue供給システムの異常検知
  • NOxセンサーの信号異常または鈍化
  • SCR(選択触媒還元)システムの判定不良
  • 尿素水インジェクションの制御異常

簡単に言えば、「AdBlueシステム全体に何か問題があるけど、具体的にどこかはっきり特定できていない」という曖昧なエラーです。

このコードが厄介なのは、原因が複合的で特定が難しいこと。NOxセンサーを交換しても消えない、AdBlueタンクを交換しても再発する…というイタチごっこになりやすいわけです。

さらに言えば、このエラーを放置すると:

⚠️ 「あと〇〇km以内にエンジン始動不可」というカウントダウンが始まる
⚠️ カウントがゼロになるとスターターロックが発動
⚠️ 一度ロックされると、解除するまでエンジンが一切かからない

つまり、「そのうち直そう」では済まされない、タイムリミット付きのトラブルなんです。


原因:AdBlue/NOxシステムの複合的な故障

三菱ふそうのキャンターは商用車として非常に人気がある車種ですが、AdBlue関連のトラブルは年式を問わず多発しています。

通常AdBlueやDPF関連の警告が出る場合、以下のような故障が考えられます。

  • NOxセンサーの故障
  • AdBlueタンク内ポンプやセンサーの故障
  • DPF(ディーゼル微粒子フィルター)の詰まり
  • SCR(選択触媒還元)システムの不具合
  • 配線やコネクタの接触不良

診断機で故障コードが検出されないのは、過去に何度も警告灯が点灯と消灯を繰り返し、整備工場様がその都度コードを消去していたためと推測されます。

ただ、部品交換となると以下のような現実的な問題があります:

  • NOxセンサー:1つ10万円前後で、複数個使用されているため20〜30万円以上
  • AdBlueタンク内部品:30〜50万円
  • DPFマフラー:40〜60万円以上
  • 部品の調達も困難で本国にすらない事も多く、納期未定で車が動かせない期間が発生

また、商用車の場合は1つの部品を交換しても、別の箇所がすぐに故障してしまうというイタチごっこになるケースも少なくありません。走行距離が15万kmを超えてくると、AdBlue関連部品が一斉に経年劣化してくる時期でもあります。

整備工場様とお客様で協議した結果、今回はECUプログラム調整での対応を選択されました。


解決策:ECU BOOT読み出しによるプログラム調整

三菱ふそうキャンターのECUは通常の書き換え方法に制限がかかっているケースもあり、今回のような対応にはBOOT接続が必要となります。

データ読み出しには大きく分けて2つの方法があります:

  • ECUのコネクタから読み出す方法(比較的簡単)
  • ECU内部の基板上にある小さなアクセスポイントから読み出す方法(高度な技術が必要)

今回のキャンターは後者のタイプで、ECUの蓋を開けて内部基板に直接アクセスする必要がありました。

ECUの蓋を開けると、そこには緑色の基板がびっしりと電子部品で埋め尽くされています。その中から目的のBOOTポイントを探し出し、髪の毛より細いプローブを正確に当てる…

少しでも位置がズレたり、力の加減を誤ると基板を破損してしまうため、非常に神経を使う作業です。

この方法は高度な技術と専用機器が必要で、ECU内部の全データに直接アクセスする方法となります。

作業手順

1. ECUの取り外し

車両からECUユニットを慎重に取り外します。キャンターの場合、ECUは運転席足元付近に設置されていることが多く、内装パネルを外してアクセスします。静電気に注意しながらの作業です。

2. ECU開封とBOOT接続準備

ECU内部基板への接続準備

ECUの蓋を開けて内部基板にアクセス。専用のツールを使用してBOOT接続の準備をします

ECUのケースを開封し、内部の基板に直接アクセスします。この作業は非常にデリケートで、少しでも間違えるとECUが完全に壊れてしまう可能性があります。実際に整備グループ内では誤って破損させてしまったという報告がちらほらあります。

基板への直接接続作業

専用のプローブを使用して基板上のチップに直接接続

基板上の特定のポイントに専用のプローブを接続していきます。三菱ふそうのECUは基板上のBOOT接続ポイントが小さく、非常に神経を使う作業です。

3. BOOT接続によるデータ読み出し

BOOTモードでの接続

BOOTモードでECUに接続。通常のOBD診断では読み取れないデータにアクセスします

BOOT接続が確立されると、ECU内部のすべてのデータを読み出すことができます。

データ読み出し中

ECU内部データの読み出し作業中

この読み出しには時間がかかりますが、確実にデータを取得していきます。読み出しが完了するまで電源を切ることはできませんので、慎重に待ちます。

4. オリジナルデータのバックアップ

フルバックアップの実施

ECU内部にある全データをフルバックアップ

読み出したオリジナルのECUデータは、複数の場所にバックアップを取ります。データは紛失や消失しないように各所にバックアップをする体制を整えています。もし作業中に何かトラブルが発生しても、このバックアップがあれば元に戻すことができます。

バックアップデータの確認

読み出したデータの内容を確認。16進数で表示されるECUのオリジナルデータ

これがECU内部のオリジナルデータです。この中からAdBlue関連のパラメータやNOxセンサーの閾値設定を探し出し、調整を行っていきます。電子の鼓動が聞こえてくるようです 笑

5. AdBlue無効化プログラムの作成と書き込み

読み出したデータを元に、AdBlue監視機能を調整したプログラムを作成します。具体的には、NOxセンサーの判定閾値を広げたり、AdBlueの残量監視を無効化したりする調整を行います。

プログラム書き込み中

調整したデータをECUに書き込み中

調整したプログラムをECUに書き込んでいきます。この作業も慎重に行います。書き込み中に電源が切れたり、通信が途切れたりするとECUが完全に壊れてしまうため、安定した環境で作業を進めます。

書き込みが完了したらECUを組み立て直し、車両に再装着します。


作業後の結果

作業完了後のメーター表示

作業完了後のメーター。警告灯がすべて消灯しています

ECUプログラム調整が完了し車両を再起動すると…

メーター内の警告灯がすべて消灯しました。

警告灯が消え、日常使用に支障のない状態に戻っています。これは部品そのものの故障因子を完全に取り除いた「修理」ではなく、運用上の制御条件を調整し再発しない状態の確保を意図した対応です。

修理後の診断機画面

診断機で最終チェック。「故障コードはありません」の表示

診断機での最終確認でも、故障コードは完全に消去されていることを確認できました。

最後は20、30キロほど試運転をして警告灯の再点灯がないことを確認。これで作業は完了となります。

作業結果まとめ

  • AdBlue関連の警告灯がすべて消灯
  • エンジンチェックランプも消灯
  • 診断機でのエラーも検出されず
  • 安心して日常業務に復帰
  • BOOT接続による直接読み出しで、通常のOBD診断では対応困難な案件に対応
  • 高額な部品交換を回避し、コストを大幅に削減

参考データ・作業内容

車両情報

  • 車種:三菱ふそう キャンター
  • 走行距離:151,361km
  • 症状:AdBlue/エンジン警告灯点灯
  • ECU型式:0 281 020 173 (EDC17CP52)

作業内容

  • 診断機での故障コード確認
  • ECU取り外し
  • ECU開封とBOOT接続
  • オリジナルデータの読み出し
  • データバックアップ(複数箇所)
  • AdBlue無効化プログラム作成
  • NOxセンサー閾値調整
  • ECUへのデータ書き込み
  • ECU再装着
  • 診断機での最終確認
  • 試運転(20〜30km)

ご依頼ありがとうございました。

今回の作業はECUを直接開封してデータを読み出すBOOT接続という高度な作業が必要となりました。通常のOBD診断では対応できない案件でも、こうした技術を駆使することで対応できるケースがあります。

ただし、この作業には相応の時間とリスクも伴います。ECU内部基板への直接アクセスは、少しでも間違えるとECUが完全に故障してしまう可能性もあるため、慎重に作業を進める必要があります。

三菱ふそうのキャンター以外でも、いすゞエルフやマツダタイタンなどの商用車、またメルセデスベンツやBMW、フォルクスワーゲンなどの輸入車ディーゼルにも対応可能な場合がありますので、AdBlueやNOxでお困りでしたらお問い合わせお待ちしております。

丁寧な整備を心がけておりますので、ひとつひとつの作業にどうしても時間がかかってしまいます。

急いで作業を行えばヒューマンエラーにもつながりますし、ミスを無くすためにも1〜2週間程度のお時間をいただいております。

どうぞご協力お願いいたします。

AdBlueの警告でお困りの方へ

「あと数百キロでエンジンがかからなくなる」という警告。その不安を抱えたまま運転するのは、とてもストレスがかかるものです。

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重要な補足説明

毎回重ねてお伝えしておりますが、これを「修理」とは言えないと思っています。

NOxにしてもAdBlueにしても、部品はどちらもかなり高額である上に欠品している事が非常に多く、直したくても直せないという状態に陥っている方を非常に多くお見受けしています。

それをプログラムで少し”調整”してあげたり、部品が入荷するまで運用出来ないお車を一部機能に付いてのみ一時的に”撤廃”作業を施して運用出来る様にするというものです。

いま点灯しているエンジンチェックランプの点灯原因・内容が分かってはいるものの、NOxやAdBlueがチェックランプを点灯させ続けている状態では、全く別の重大なトラブルが発生したとしてもドライバーさんは気付く事が出来ません。

なので、過敏に反応する設定となっている”閾値”(いきち)を少しだけ幅を持たせた値に調整する事でエンジンチェックランプの点灯を一時的に抑えることで、それとは全く別で発症した”本当に重大なトラブル”にドライバーさんが早く気付く事が出来るように、本来の意味としての「エンジンチェックランプ」点灯お知らせ機能を取り戻す作業です。

部品が欠品中で納期未定の為車が動かせない(スターターロックが発動してエンジンがかからない)などの場合での、部品が入るまでの一時的な緊急対策措置である事をご理解いただき、部品が入荷した際には元のプログラムに戻して部品を交換するという事を弊社ではお勧めしております。

同作業をご希望される方は、その辺りをご理解下さい。


この技術・情報はまだまだ発展途上の所もあります。

殆どが成功し続けて行く中、それでもごくごく稀にエラーが消えないとか、スターターロックが再発動するとか、そんな事が起こるのがゼロではありません。

この一連の作業内容ができるネットワークは今や10社まで広がり、まだ更に広がる可能性を含んでいます。そしてお互いに情報を共有しつつ、時にはトライ&エラーを続けながら全員で前に進んでいます。

現況では完璧に仕上がった技術では無い事や、もしかするとその「ごく稀」な案件に当たってしまう事もあるかも知れません。不本意ながらご迷惑をおかけしてしまう事だってあると思います。

そんな時こそそのネットワークを駆使し、施工している仲間たちで知恵を絞り出し合って、精一杯対応させて頂きます。全員が本気で取り組んでいますので、暖かい気持ちで見守っていただければ幸いです。

もちろん、その様な事が起こらない様に、日々学び、日々ステップアップし続けていますので、もし「依頼してみたい」と思って頂けた方は、お問い合わせ下さい。


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