三菱ふそう キャンター 外観 入庫車両
入庫した三菱ふそう・キャンター
配送や建設、物流など、現場の最前線で走り続ける三菱ふそう キャンター。4P10ディーゼルエンジンを搭載したこの車両は、パワーと燃費のバランスに優れ、多くの事業者から信頼されています。
ただ、その一方で避けて通れないのがAdBlue(尿素SCR)システムのトラブルです。
・「またエンジンチェックランプが点いた…」
・「修理見積もりが30万、50万と言われて頭が痛い」
・「ディーラーで直したばかりなのに、また同じエラーが出た」
こうした声が、当店には毎日のように寄せられています。今回ご入庫いただいたキャンターも、まさにその「終わらないAdBlueトラブル」に悩まされていた1台でした。
部品交換だけでは根本解決にならない。そう判断したお客様のご希望で、今回は車両の頭脳であるECUを調整し、AdBlueシステムの過敏な反応そのものを落ち着かせる方法を選択しました。

入庫車両とトラブルの状況

まずは、今回ご依頼いただいた車両の基本情報から。
  • 車種: 三菱ふそう キャンター(BlueTec)
  • 型式: FEB50
  • 走行距離: 8,600km
  • 症状: エンジンチェックランプ点灯、AdBlueシステム警告表示
  • 現状: 走行は可能だが、いつ出力制限がかかってもおかしくない
走行距離はまだ1万キロにも満たない、ほぼ新車に近い状態です。それなのにメーターパネルには複数の警告が並び、オーナー様は不安を抱えながら運転されていました。
キャンター メーターパネル エンジンチェックランプ AdBlue警告灯 点灯
施工前のメーター:エンジンチェックランプとAdBlue警告灯が点灯中
中央にオレンジ色の「エンジンチェックランプ」、右下には「AdBlue警告灯」。こうした警告が続くと、精神的にも落ち着きませんし、何より怖いのは「再始動禁止」が発動してしまうことです。
一度この状態に陥ると、エンジンがかからなくなり、現場で立ち往生することになります。配送業や建設業で使うトラックにとって、これは致命的です。

純正診断機により検査

警告灯だけを消して「はい、終わり」では、また同じトラブルが繰り返されるだけです。まずは専用診断機「XENTRY」を接続し、車両が今どんな状態になっているのかを正確に把握します。
XENTRY診断機 エラーコード 210D12 6EF1FF NOxセンサー異常
純正診断機XENTRYでの診断画面。
一般的なOBD診断機だと「P229F」や「P2200」といったコードで表示される部分ですが、専用機を使うことでより詳細な内部情報まで読み取れます。

検出されたDTC(故障コード)

  • 210D12 (3361 18):NOxセンサの排出ガス値(未加工データ)が高すぎます
  • 6EF1FF (520558 31):システム・インフォメーション 6
さらに、ライブデータを見ながらセンサーが実際に正常な値を送信しているかもチェックしていきます。
ライブデータ NOx値 実測値 異常
ライブデータ画面:NOx値が異常表示
今回の車両では、青枠内の「NOx値(実測値)」が「--」という異常値のまま固まっている状態でした。
車両のECU(エンジンコントロールユニット)は「排ガス浄化装置に問題がある」と判断し各種警告を点灯させます。走行を続ければ、やがてエンジン出力制限や再始動禁止といった保護機能が働く可能性が高いわけです。

部品交換か、ECU調整か

通常こうした症状に対してディーラーや整備工場が提案するのは「NOxセンサーの交換」です。確かにセンサーが壊れているなら、交換すれば一時的には直ります。
ただしキャンターのNOxセンサーは1個あたり数万円から十万円近い高額部品です。しかも日本の運行環境——渋滞、短距離配送、アイドリング時間の長さ——を考えると、交換しても数ヶ月で再発するケースが少なくありません
実際、当店にご相談いただくお客様の中にも「ディーラーで直したのに、また同じエラーが出た」という方が大勢いらっしゃいます。これでは修理費がかさむばかりで、安心して車両を使い続けることができません。
そこで今回はお客様のご希望により、根本的な誤判定を抑えるための「AdBlueシステムの無効化・判定ロジック調整」という対策を選択されました。

ECU書き換え(AdBlue撤廃)の施工プロセス

AdBlue撤廃(無効化)といっても、単にカプラーを抜いて終わり…という簡易的な作業ではありません。車両の頭脳であるECUのプログラムを丁寧に調整し、システムを安全に制御するための専門的な作業になります。

Step 1:ECUの取り出しとベンチ接続

まず車両からECUを取り外し、作業用のデスクで専用ツールに接続します。
ECUプログラミング Flexツール ベンチ接続
ECUプログラミングの作業風景
今回使用するのは「MagicMotorsport Flex」というツールです。ECUチューニング分野で高い評価を得ている専用機で、ECUに直接アクセスし、安定した通信経路を確保したうえでプログラムの読み書きを正確に行います。
車両から取り外したECU(Bosch製)に特殊なピン配列でツールを接続し、まずは現在のデータを読み取っていきます。

Step 2:純正データのフルバックアップ

作業の前に、必ず現在のデータを「フルバックアップ」します。これは絶対に省略できない工程です。
ECUデータ フルバックアップ Reading Full Backup
PC画面:「READING FULL BACKUP」表示中
バックアップを取っておけば、万が一のトラブルや、将来的に車両を売却される場合でも、元の状態にいつでも復元できます。お客様に安心していただくためにも、この工程は必ず実施しています。

Step 3:プログラムの解析と編集

バックアップが完了したら次はプログラムの解析です。AdBlue関連の制御——NOxセンサーの監視、尿素噴射量、ヒーター動作など——の部分だけを慎重に選んで調整していきます。
重要なのは、エンジンそのものの燃焼設定には一切触れないということです。排ガス浄化システムの監視機能だけを調整するため、黒煙が増えたり、走りが悪くなるといった変化は起こりません。

Step 4:編集データの書き込み

編集したデータを、再びECUに書き込みます。
ECUデータ書き込み Writing Flash
書き込み作業中の画面
画面には「Writing Int Flash」と表示され、高度な演算処理を行いながら慎重にデータを転送していきます。この間、絶対に電源を切ってはいけません。途中で中断すると、ECUが壊れてしまう可能性があるためです。
書き込み完了 Success画面
書き込み完了:SUCCESS表示
「SUCCESS」の文字が表示されれば、無事にプログラムの変更が完了です。この段階で、ECUは「AdBlueまわりの監視は必要ない」という判断に更新され、過敏な警告が出ない設定になります。

Step 5:物理的な処置と最終確認

プログラム側の処理が完了したら、ECUを元の位置に取り付けます。そのうえで、車種に応じてAdBlueコントロールユニットや各センサーのカプラーを外し、最終的な制御の切り替えを行います。
AdBlueコントロールユニット カプラー取り外し 絶縁
ECU取り付けとカプラー処理
静電気に注意しながらECUを車体側面に設置し、車種別の後処理を実施すればECUが過敏に反応しない設定となり安定した制御が維持されます。

施工後の結果:すべての警告灯が消灯

さて、作業が完了した車両のメーターパネルは、今どうなっているでしょうか。
修理後 キャンター メーターパネル 警告灯消灯
施工後のメーターパネル
エンジンチェックランプもAdBlue警告灯も完全に消灯しています。DPF機能はそのまま生きているのでDPFレベルの表示も通常どおり。自動再生も問題なく動作します。
試乗してみるとエンジンの吹け上がりも軽く黒煙が出るような様子も一切ありません。エラーコードもゼロ。車両システム全体が正常に動作していることを確認できました。

AdBlue撤廃で得られる3つのメリット

今回の作業で、お客様が手に入れたメリットは大きく3つあります。

1. 尿素水の補充が不要になる

AdBlueシステムが無効化されたことで、今後は尿素水を補充する必要がなくなります。尿素水は1リットルあたり数百円ですが、頻繁に補充していると年間でそれなりの費用になります。このランニングコストがゼロになるのは大きなメリットです。

2. 高額なセンサー修理が不要になる

NOxセンサーの交換費用は、部品代だけで数万円から十万円近く。工賃を含めると、1回の修理で20万円を超えることも珍しくありません。しかも、交換しても数ヶ月で再発するケースが多いわけです。
今回のECU調整によりセンサーが壊れても警告が出なくなるため、こうしたAdblue NOx関連の高額修理から完全に解放されます。

3. 再始動禁止のリスクを回避できる

AdBlue警告を放置すると最終的には「エンジン再始動禁止」が発動し、エンジンがかからなくなります。現場で突然動かなくなると業務に大きな支障が出ますしレッカー代もかかります。
この不安から解放されるだけでも精神的に大きな安心感が得られるはずです。

部品交換との比較

参考までに、今回の作業を「部品交換」と比較してみます。
項目 部品交換(NOxセンサー) ECU調整(AdBlue撤廃)
費用 25万円〜50万円 20万円前後
再発の可能性 高い(数ヶ月〜1年) ほぼなし
ランニングコスト 尿素水の補充が必要 不要
作業時間 部品待ち次第(数週間〜) 1〜2日
部品交換は一時的には直りますが、再発リスクが高くトータルコストで考えるとECU調整のほうが圧倒的に有利です。

注意点とお願い

今回の作業は、部品の調達に時間がかかったり、チェックランプ点灯の裏に隠された重大なエラーの可能性も踏まえた対応となります。ご理解いただければ幸いです。
また、丁寧な整備を心がけておりますので、ひとつひとつの作業にどうしても時間がかかってしまいます。急いで作業を行えばヒューマンエラーにもつながりますし、ミスを無くすためにも1〜2週間程度のお時間をいただいております。どうぞご協力お願いいたします。

こんな方はお気軽にご相談ください


● 初めての問い合わせで不安な方
● 車の修理をしたいけど迷っている方
● どこのお店に依頼していいかわからない方
経験豊富な整備士が適切なアドバイスをいたします。遠慮なさらずにお問い合わせください。

重要な補足説明

毎回重ねてお伝えしておりますが、これを「修理」とは言えないと思っています。

NOxにしてもAdBlueにしても、部品はどちらもかなり高額である上に欠品している事が非常に多く、直したくても直せないという状態に陥っている方を非常に多くお見受けしています。

それをプログラムで少し”調整”してあげたり、部品が入荷するまで運用出来ないお車を一部機能に付いてのみ一時的に”撤廃”作業を施して運用出来る様にするというものです。

いま点灯しているエンジンチェックランプの点灯原因・内容が分かってはいるものの、NOxやAdBlueがチェックランプを点灯させ続けている状態では、全く別の重大なトラブルが発生したとしてもドライバーさんは気付く事が出来ません。

なので、過敏に反応する設定となっている”閾値”(いきち)を少しだけ幅を持たせた値に調整する事でエンジンチェックランプの点灯を一時的に抑えることで、それとは全く別で発症した”本当に重大なトラブル”にドライバーさんが早く気付く事が出来るように、本来の意味としての「エンジンチェックランプ」点灯お知らせ機能を取り戻す作業です。

部品が欠品中で納期未定の為車が動かせない(スターターロックが発動してエンジンがかからない)などの場合での、部品が入るまでの一時的な緊急対策措置である事をご理解いただき、部品が入荷した際には元のプログラムに戻して部品を交換するという事を弊社ではお勧めしております。

同作業をご希望される方は、その辺りをご理解下さい。


この技術・情報はまだまだ発展途上の所もあります。

殆どが成功し続けて行く中、それでもごくごく稀にエラーが消えないとか、スターターロックが再発動するとか、そんな事が起こるのがゼロではありません。

この一連の作業内容ができるネットワークは今や10社まで広がり、まだ更に広がる可能性を含んでいます。そしてお互いに情報を共有しつつ、時にはトライ&エラーを続けながら全員で前に進んでいます。

現況では完璧に仕上がった技術では無い事や、もしかするとその「ごく稀」な案件に当たってしまう事もあるかも知れません。不本意ながらご迷惑をおかけしてしまう事だってあると思います。

そんな時こそそのネットワークを駆使し、施工している仲間たちで知恵を絞り出し合って、精一杯対応させて頂きます。全員が本気で取り組んでいますので、暖かい気持ちで見守っていただければ幸いです。

もちろん、その様な事が起こらない様に、日々学び、日々ステップアップし続けていますので、もし「依頼してみたい」と思って頂けた方は、お問い合わせ下さい。



参考データ・主な作業内容

三菱FUSO キャンター (FEB50)
施工時走行距離: 8,600km

・AdBlue調整/NOxセンサー鈍感化プログラムインストール


お問い合わせ・ご相談

株式会社オートプラネット(AdBlue NOx 診断ラボ)

※お問い合わせの際は「ブログのキャンターの記事を見た」とお伝えいただくとスムーズです。

修理のお見積もり後、もし金額面でお乗り換えをご検討される場合は
故障した状態のままでも当店で買取が可能です。

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この記事を書いている人

オートプラネット篠塚真介

オートプラネット篠塚真介

埼玉にあるオートプラネットで働くメカニック。日々、大好きな整備や修理に明け暮れていて、とても充実しています。仕入先でみつけた素敵なクルマや整備・修理の内容を、自分のか細い語彙力で紹介していきます。何ごとにも探求心のある人に憧れる。